本稿は、国外の第三者に個人データを提供する際の日本法(個人情報保護法=APPI)に基づく“迷わない実装書”です。要点は三つ。①同意ルート(28条2項・規則17):同意前に国名/当該国の制度/受領者の保護措置を確実...
本稿は、国外の第三者に個人データを提供する際の日本法(個人情報保護法=APPI)に基づく“迷わない実装書”です。要点は三つ。①同意ルート(28条2項・規則17):同意前に国名/当該国の制度/受領者の保護措置を確実に認識できる方法で提示して同意取得。②相当措置ルート(規則16・18):契約や規程で法4章2節趣旨相当の措置(目的限定、安全管理、再提供制限、権利行使協力 等)を課し、定期確認+本人への情報提供を運用として回す。③指定国(PPC告示)であるEU・英国は同等水準として扱えるが、条件付与・見直しに備え根拠と版管理を台帳で保持する。
読者対象はB2C・SaaS・広告/分析・EC・グローバル連結・CS・クラウド委託・親子間提供。まず「第三者か(別法人格か)」「委託(27条5項1号)に該当し第三者提供に当たらないか」を切り分け、個人関連情報31条が併走する場合(受領側が個人データとして取得)には確認・記録を追加。金融など高規制業種では相当措置の継続可能性確認が重くなる点を先に折り込みます。
本稿の肝は運用台帳×ログ。案件ごとに「国/地域・受領者・根拠(同意/相当/指定国)・同意UI版ID・契約ID・最終確認日/次回確認日・停止基準」を一行で保持。同意前情報提供スクショ、契約条項抜粋、継続確認メモ(制度・運用)、本人からの情報提供請求への回答履歴、停止判断の記録まで揃えれば、監査・当局照会・社内説明が一気通貫で再現可能になります。
実務手順も即時に展開できます。
棚卸し表:国/受領者/目的/適法ルート/契約ID/次回確認日/停止SOP。
同意UI文例(規則17整合)をそのまま差し替え。
相当措置の再契約(規則16)と継続確認のSLA化(規則18)。
DTIA(データ移転影響評価)で**制度リスク(当局アクセス・救済可能性)と実装リスク(暗号・鍵管理・再提供管理)**を定量チェック、四半期見直しへ。
公開情報の整合:プライバシーポリシーに越境有無/国名/根拠を常時反映。
よくある誤解も一次資料で矯正します。SCC締結=日本でも自動適法ではありません(日本は契約+運用が要件)。クラウド=常に28条でもありません(委託なら形式上28条の提供に当たらず、ただし目的外利用を封じる契約・監督が不可欠)。同意だけでは足りず、同意前情報提供が欠ければ有効性が揺らぎます。EU/UKも「ノールック」ではなく、告示の条件や見直しに備えた版管理・レビューが必要です。
付録に、同意UI雛形、相当措置条項抜粋、DTIAチェック、台帳列セットを収録。これ一冊で、「適法ルート選択→UI/契約→継続確認→停止」のフローを過剰防衛なく、止めどころも含めて実装できます。組織横断の合意形成にも使える“監査耐性のある日本語テンプレ”としてご活用ください。
※一般情報であり法律相談ではありません。最終判断は自社法務・DPO・顧問弁護士と行ってください。
著者:伊藤憲和 / Norikazu Ito