「海外源氏情報」にみる海外で翻訳・出版された平安文学情報(当該HP掲載情報について).pdf

asakawamakikog8 10 views 8 slides Feb 03, 2025
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About This Presentation

科学研究費補助金(17H00912)による第9回「海外における平安文学」研究会での発表資料です。 「海外源氏情報」 とは、2014年から2017年3月までの約3年半にわたり、科学研究費補助金による研究において運営されていたHPのこ�...


Slide Content

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第9回「海外における平安文学」 研究会発表資料
日時:2017年6月30日(金)13:30〜17:00
場所:大阪観光大学 明浄1号館4階141セミナー室
「海外源氏情報」にみる海外で翻訳・出版された平安文学情報
淺川 槙子
1.HP「海外源氏情報」

「海外源氏情報」
1
とは、2014年から2017年3月までの約 3年半にわたり、 科学研究費補助金による研究
2
において 運営されていた HPのことである。この HPでは、情報発信と研究成果の公開 を行っていた 。研究成果
には、論文集『海外平安文学研究ジャーナル』と『日本古典文学翻訳事典』はともに、当該 HPから一般公開
された。なお、下記にあげる( 図1)は当該HPのトップ画面であ り、大学共同利用機関法人 人間文化研究機
構 国文学研究資料館 が所蔵し、オープンデータとして公開している 『源氏物語 団扇画帖』「若紫」
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を加工し
たものである。 また、(表1)には、HPに掲載していた 主な項目と内容の概要を 挙げている。
当該HPは、新規科研の開始にともない、名称の変更が検討されているものの、 情報発信と研究成果の公開
の場として 引き続き運用される予定である。本発表では、当該 HPに掲載されていた内容を整理し、特に 海外
で翻訳・出版された平安文学 の情報について紹介していく。


(図1)HP「海外源氏情報」のトップ画面

(表1)「海外源氏情報 」の主な項目と内容の概要
主な項目と内容の概要
1.研究と成果・報告
研究代表者のあいさつ、 目的/意義/概要 、
計画のあらまし、研究組織・海外協力者、
過去の実績
本科研による研究 の背景、目的、 今後の計画、研究組織、 本科研
の背景となった過去 実施された研究 についての説明など、 当該研
究における 全般的な内容が掲載されている。
『海外平安文学ジャーナル 1~6/インド編』
(2014年度~2016年度)
PDF形式のファイルをダウンロードできるが、 2017年6月29日現
在はダウンロードを 停止中である。
研究会報告 全8回の研究会と カナダで開催された国際集会、中古文学会での
フリースペースについての報告を掲載した。

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海外源氏情報 . http://genjiito.org/.[参照:2019-05-15]
2
日本学術振興会.科学研究費補助金 (基盤研究 A)海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合
的調査研究( 研究代表者伊藤鉄也、 課題番号 25244012).https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25244012/[
参照:2017-05-15]
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『源氏物語 団扇画帖』(請求記号 99-121)[参照:2014-01-10]

2


『日本古典文学翻訳辞典 1/2』
(2013年度/2016年度の報告書)
PDF形式のファイルをダウンロードできる が、2017年6月29日現
在はダウンロードを 停止中である。
2.『源氏物語』情報
翻訳版『源氏物語』 翻訳された『源氏物語』のうち、現在 Webで閲覧できるものをリ
ンクして紹介をおこなってい る。
『源氏物語』翻訳史 『源氏物語』の翻訳書籍の情報を年表形式で掲載している。
『源氏物語』原本データベース 『源氏物語』の写本や版本の画像を確認できるサイトのリストで
ある。
現代語訳『源氏物語』年表 明治時代から戦前に出版された『源氏物語』に関する 書籍のうち、
現代語訳を掲載している書籍のリストである。
翻訳版『源氏物語』 翻訳された『源氏物語』のうち、現在 Webで閲覧できるものをリ
ンクし、紹介もしている。
3. 平安文学情報
平安文学翻訳史 各国語に翻訳された『源氏物語』以外の平安文学作品について年
表形式でまとめたものである。
平安文学関連 Webサイト 平安文学・平安時代の文化に関する 多彩な情報を掲載している。
4.十帖源氏(『源氏物語』のダイジェスト版)
論文リスト 『十帖源氏』に関する論文のリストを掲載している。
「桐壺」対訳 現代語訳 と10カ国語での対訳をめざすと いう計画についての説明
をしている。
各国語版『十帖源氏』 『十帖源氏』「桐壺」巻を現代語に訳した データが掲載されている。
2016年の11月にインドで開催された国際集会では、『十帖源氏』
「桐壺」巻の現代語訳をインドで話されている 5つの言語に翻訳
し、それを題材にシンポジウムを行った。
『十帖源氏』原本データベース 底本である国文学研究資料館蔵『十帖源氏』(万治 4年本)の画像
等を確認することができる。
5. 海外・平安文学資料
対訳データベース(グロッサリー) 英訳した『十帖源氏』「桐壺」をした利用したデータベースである。
母語話者と非母語話者による2種類の訳である。
グロッサリー関連リンク グロッサリーに関連したサイトのリンク集である。
6.翻訳参考情報
翻訳参考情報 翻訳に関係した論文、文献、ドキュメント、エッセイなどを広く
紹介している。
海外タイトル一覧表 海外で発行された平安文学のタイトル一覧表である。

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2. 「海外源氏情報 」にみる平安文学情報

(1)『源氏物語』翻訳史年表と 「平安文学翻訳史年表 」の作成
当該HPにおける主な平安文学情報 とは、海外で翻訳・出版された平安文学作品に関するものである。 その
中には『源氏物語』も含まれる が、翻訳・出版された 書籍の数が多いことから、当該作品 情報は、『源氏物語』
翻訳史年表に掲載し、 それ以外の作品情報は「平安文学翻訳史年表」
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に情報を掲載してきた。現在は 当該年
表に581件のデータが掲載されている。 これらのデータには、 過去の科学研究費補助金による研究成果 から引
き継いできたデータ
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も含むが、その場合は 掲載項目を変更したうえで HPに改めて掲載している。
翻訳された平安文学 作品の情報をどのように収集 やおよび掲載しているか について、 書籍化されている「日
本文学翻訳史年表( 1904~2000年)」
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、そのほかインターネット上 の情報では 、CiNii
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、国立国会図書館 OPAC
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日本文学翻訳作品データベース
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、Index Translationum: UNESCO Culture Sector
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などのサイト で、平安文
学作品を検索して 該当する作品のデータを掲載した。 なお、書籍の現物が確認できる場合は、扉や前書きに出
版情報が掲載されていることが多いため、そちらも参照した。しかし、書籍の再版および重版に関する情報は、
インターネット上の情報をもとに調査することが多かった。 そのような調査結果は、 『源氏物語』翻訳史年表
および平安文学翻訳史年表 の掲載項目にあわせて掲載し、修正・追加を行っている。
以下、HP上で公開されている年表の掲載項目について記載する。

(2)翻訳された言語と作品 からわかること
①『源氏物語』の翻訳状況と合致しない場合
このように 翻訳された平安文学作品には 、どのような 作品が存在する のだろうか。たいていの場合 、
『源氏物語』の翻訳状況と合致する。 例えば、今回の研究会で 発表テーマの一つである 『とりかへばや物語』
は、英語・ドイツ・フランス・ロシア語に翻訳されており、 この4言語で翻訳された『源氏物語』も存在する。
しかしその一方で、 『源氏物語』が翻訳されて おらず、平安文学作品 のみが翻訳されている国(言語)も存在
する。ラトビア語訳 およびブルガリア語訳 『枕草子』、ブルガリア語訳 『伊勢物語』 がこの場合に該当する 。
以下、(表2)に『源氏物語』の翻訳が存在せず、 それ以外の 平安文学作品のみ翻訳が 実施されている言語
と作品を 整理する。なお、各言語の冒頭に 記載されている数字は、 (図 2)(図 3)の地図に記載した番号と対
応させたものである。最右列には『日本古典文学翻訳事典』における掲載ページ情報を掲載している。





4 海外源氏情報 .平安文学翻訳史年表. https://genjiito.org/heian_ltrt/heian_history/[参照:2019-05-15]
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日本学術振興会.科学研究費補助金 (基盤研究 B)外国語による日本文学研究文献のデータベース化に関する調査研究
(研究代表者伊藤鉄也、 課題番号 15320034).https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15320034/[参照:
2017-05-15]当該研究で成果報告書として刊行された、( 1)『海外における源氏物語』 (2003年12月)(2)『スペイン語圈にお
ける日本文学』 (2004年9月)(3)『海外における平安文学』 (2015年2月)の3冊の報告書に掲載された内容もデータとして集
約している。
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日本比較文学会編『越境する言の葉 日本比較文学会学会創立六〇周年記念論集』(彩流社、 2011年)
7
国立情報学研究所 .Cinii. https://cir.nii.ac.jp/[参照:2017-05-15]
8
国立国会図書館. https://www.ndl.go.jp/[参照:2017-05-15]
9
独立行政法人国際交流基金.日本文学翻訳作品データベース .https://jltrans-opac.jpf.go.jp/[参照:2017-05-15]
10
UNESCO.Index Translationum: UNESCO Culture Sector .http://www.unesco.org/xtrans/[参照:2017-05-20]

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(表2)『源氏物語』の翻訳が存在 しない言語による翻訳 作品
言語 作品名 翻訳書籍のタイトル 刊行年 翻訳事典
①ウクライナ 古今和歌集 З б і р к а старих і нових
японських пісень :
поетична антологія
(905-913 рр.)
(Zbіrka starix і novix japonskix pіsjen :
pojetichna antologіja (905-913 rr.))
1998年 ナシ
②スペイン
(カタルーニャ )
紫式部日記 Diari 1990年 p.215
③スロバキア 古今和歌集 Kokinšú : piesne z Cisárskeho úradu pre poéziu 1998年 ナシ
④チベット 竹取物語 表記不可(日本語訳はかぐや姫 日本の昔話) 2002年 ナシ
⑤デンマーク 浜松中納言物語 Evigt elskes kun det tabte: Hamamatsu chunagon
monogatari, en japansk roman
fra 1000-tallet oversat til dansk af
1981年 p.219
⑥ブルガリア 伊勢物語 Исе моногатари :
любовни етюди : избрано
(Ise monogatari : li︠u︡bovni eti︠u︡di : izbrano)
2015年 ナシ
枕草子 Записки под възглавката
(Zapiski pod vŭzglavkata)
1985年 p.221
⑦ベンガル 竹取物語 不明 2010年 ナシ
⑧ラトビア 枕草子 Priegalvio knyga 2007年 ナシ
⑨ルーマニア 落窪物語
竹取物語
Frumoasa Otikubo

1986年 ナシ

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(図2)(表 2)の結果をヨーロッパの地図にあてはめたもの
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(図3)(表 2)の結果をアジアの地図にあてはめたもの
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(表 2)を見ると、圧倒的にヨーロッパの言語による翻訳が多い。なお、ベンガル語については、昨年 11月に

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ヨーロッパ .MMG クリエイティブネット無料地図素材. https://www.mmgjapan.jp/images/freemap/mfrab001.jpg[参照:
2017-06-28]
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アジア. MMG クリエイティブネット無料地図素材. https://www.mmgjapan.jp/images/freemap/mfrae001.jpg[同]

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インドで開催された国際集会において、『十帖源氏』「桐壺」巻が公開され、『海外平安文学研究ジャーナルインド編』
に本文が掲載されているものの、『源氏物語』の翻訳が存在しないため、このリストに加えたことを述べておく。
そもそも、古典文学作品の中では「世界文学」と呼ばれる『源氏物語』が翻訳されていない言語で、『源氏物語』
より知名度が低いと思われる平安文学作品が翻訳されているのはなぜだろうか。これらの作品は、物語、随筆、日
記、和歌と作品のジャンルは異なる。その中でも比較的長い分量を持つ作品は『浜松中納言物語』であるが、いず
れも作品の長さが『源氏物語』よりもはるかに短い。『枕草子』のように比較的短い章段で構成されている作品や、
日記のように執筆年月や内容で区切りやすい作品もある。これらは、一つの物語のように、前後の内容につながり
がなく独立した内容になっている場合も多いため、翻訳者にとっては、全訳にこだわらず翻訳に取りかかりやすい
と推測できる。

②1 種類の言語により翻訳されている作品
一方、翻訳書籍の側から考えると、複数の言語による翻訳が存在せず、 1 種類の言語により翻訳された作品
が存在する。例えば『新撰和歌集』はロシア語訳、『春記』はフランス語のみ存在する。以下、(表 3)に 1 種
類の言語により翻訳された作品を整理する。ただし、英語のみで翻訳されている作品は非常に多いため割愛す
る。
(表3)1 種類の言語により翻訳されている作品(英語訳をのぞく)
言語 作品名 翻訳書籍のタイトル 刊行年 翻訳事典
ドイツ 空海僧都伝
白箸翁伝
Kôbô Daishi 1943年 ナシ
ドイツ 上宮太子菩薩伝 Jôgû-Kwôtaishi-Bosatsu-Den 2003年 ナシ
ドイツ 増基法師集 タイトルはナシ 1986年 p.102
ドイツ 本朝無題詩 Japans Kurtisanen:
eine Kulturgeschichte der japanischen
Meisterinnen der Unterhaltungskunst
und Erotik aus zwölf Jahrhunderten
1997年 ナシ
フランス 春記 Notes de l'hiver 1039 Fujiwara no
Sukefusa
1994年 p.58
フランス 春記 Notes journalières de Fujiwara no
Sukefusa : traduction du Shunki
2001年 ナシ
フランス 成尋阿闍梨母集 Un malheur absolu 2003年 ナシ
フランス 御堂関白記 Notes journalières de Fujiwara no
Michinaga, ministre à la cour de
Heian (995-1018) : traduction du
Midô kanpakuki
1987年 p.46
※誤植
フランス 御堂関白記 Notes journalières de Fujiwara no
Michinaga, ministre à la cour de
Heian (995-1018) : traduction du
Midô kanpakuki
1993年 ナシ

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ロシア 寛平御時后宮 歌合

Диалоги японских
поэтов о временах года
и любви : поэтический
турнир проведённый в
годы Кампё (889 -898) во
дворце императрицы
(Dialogi i︠a︡ponskikh poėtov o vremenakh
goda i li︠u︡bvi : poeticheskiĭ turnir
provedënnyĭ v gody Kampë (889-898) vo
dvort︠s︡e imperatrit︠s︡y)
2002年 p.127
ロシア 狭衣物語/篁物語 Повесть o Сагоромо ;
Повесть о Такамура
(Povestʹ o Sagoromo ;
Povestʹ o Takamura)
2007年 ナシ





ロシア 新撰和歌集 Синсэн вакасю : вновь
составленное
собрание японских
песен
(Sinsėn vakasi︠u︡ : vnovʹ sostavlennoe
sobranie i︠a︡ponskikh pesen)
2001年 p.124

翻訳された言語はドイツ語・フランス語・ロシア語の 3カ国語であり、いずれもヨーロッパの言語であり、
『源氏物語』の翻訳も存在する言語である。各国の場所については、(図 2)の世界地図を参照していただき
たい。まず刊行年を確認すると、 Monumenta Nipponicaという雑誌に掲載された、ドイツ語訳の『空海僧都伝』、
『白箸翁伝』をのぞくと極端に古い年代に翻訳された書籍は存在しない。また各言語に焦点をあてると、
ドイツ語に翻訳された作品には、空海や聖徳太子のような特定の人物に関する伝説などを翻訳したものが 目立
つ。フランス語に翻訳された作品は、再版を含めて日記が多い。ロシア語に翻訳された作品は、特に突出
した特徴は見られない。特に伝説や物語の場合は、ドイツとロシアそれぞれの国で類似した内容を持つ作品が
あり、自国の文化との比較から翻訳にいたったのかもしれない。しかし、今回は その理由が判明しなかった。

3 まとめ~現状と今後の課題

まず(表2)・(表3)にあるように、翻訳事典のページの欄が「ナシ」となっている作品が多い。 翻訳事典
の作成時期に解題を執筆する作業が間に合わなかった作品もあるものの、 現物を確認するこ とが難しく、その
ことから解題を作成することも難しい書籍が多々あった。 その現状を解決するために、本科研では『源氏物語』
を含め、平安文学作品の翻訳書籍の収集にも力を入れたいと考えている。
書籍を収集して、書誌情報を入口に解題を作成することで、書籍の概要をつかむことにつながる。 全ての範

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囲において日本語へ訳し戻しを行わなくても、 前書きや後書きなど翻訳に至る経緯が書かれていることが多い
箇所を丹念に調査していけば、 やがて、その言語や国により翻訳書籍の作品選択に傾向があるのかについても
わかるかもしれない 。そして反対に、翻訳書籍から翻訳をした言語や その言語が話されている国を 考えること
で、より研究が広がると考えている。
今回の科研では、「海外源氏情報」の内容をさらに充実させた HPの作成に向けて動いている。新たな翻訳書
籍の情報も含め、さらに調査・研究を進めていきたい。


謝辞
本発表は、 JSPS科研費 17H00912の助成を受けたものである。